“残業代ゼロ”は幻想。裁量労働制を導入する前に知っておきたいこと
こんにちは。クラリ社会保険労務士事務所です。
「うちは専門職が多いから、裁量労働制を使えば残業代を払わなくて済むんですよね?」
…このようなご相談、実はよくあります。
ですが結論から言うと、
“裁量労働制=残業代がゼロでOK”というのは大きな誤解です。
正しく導入しないと、未払い残業代の請求や労基署からの是正指導に発展するリスクも。
今回は、裁量労働制の仕組みと、導入時に押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。
裁量労働制とは?ざっくり解説
「労働時間の長さではなく、“成果”で評価したい」
そんな企業のニーズに応じた制度のひとつが裁量労働制です。
社員に「業務の進め方や時間配分を自ら決めて働いてもらう」前提で、
あらかじめ“1日◯時間働いたとみなす”と決めておく制度です。
つまり、「9時〜18時で働いているかどうか」に関係なく、
事前に決めた「みなし労働時間」を労働時間として計算します。
「裁量がある=どんな仕事でもOK」ではない
裁量労働制は、どんな職種にも導入できるわけではありません。
法令上、認められるのは次の2パターンのみです。
① 専門業務型裁量労働制(労基法第38条の3)
弁護士・税理士・システムエンジニア・記者・デザイナーなど「19業務」が対象
→ 要件:就業規則で定める、本人の同意を得る、労使協定の締結
② 企画業務型裁量労働制(労基法第38条の4)
企画・立案・調査・分析業務に就く“本社部門”のホワイトカラー職
→ 要件:労使委員会の設置と決議、届け出、本人の同意などハードル高め
事務職や営業職など、一般的な職種では原則として使えません。
制度に合っていない職種に裁量労働制を適用すると、「違法な労働時間管理」と判断されます。
裁量労働制でも、残業代ゼロになるわけじゃない!
「1日◯時間働いたとみなす」からといって、
“どれだけ働かせてもOK”ではありません。
実際には次のようなケースで、追加の残業代や割増賃金が発生します。
• 深夜(22時〜5時)や休日に働いた場合の割増賃金
• 労働時間の実態と“みなし時間”が大きく乖離している場合
• 裁量労働制の運用ルールが守られていない場合(本人の同意がない、協定未締結など)
また、裁量労働制を適用していても、労働時間の実態(実際にどれだけ働いたか)を把握する義務はあります。
労基署の調査では、タイムカードやPCログの提出を求められることもあるため、記録が残っていないと説明に苦しむことになります。
よくある“誤解”パターン
企業からのご相談で多いのは、以下のような誤解です。
• 「専門職だから裁量労働にして残業代を払っていない」
• 「実態は普通の営業職なのに“裁量”を与えたことにしている」
• 「協定を結ばずに口頭だけで導入している」
• 「退職者から“未払い残業代”の請求が来て焦っている」
これらはすべて法的に問題がある可能性が高く、過去にさかのぼって是正されるケースもあります。
導入の前に、これだけはチェック!
裁量労働制を導入したい場合は、以下の手順とチェック項目を確認しましょう。
1. 対象となる業務が法で定める業務に該当しているか?
2. 就業規則や賃金規程に正しく反映されているか?
3. 労使協定や委員会の設置・届出など必要な手続きは行っているか?
4. 労働時間の実態把握や健康確保措置が講じられているか?
5. 本人から文書で同意を得ているか?
これらのうち一つでも不備があると、制度そのものが“無効”とされ、通常の労働時間制とみなされるおそれがあります。
クラリ社会保険労務士事務所では
裁量労働制の導入や運用には、法的な要件と実務のバランスを取ることが求められます。
クラリ社会保険労務士事務所では、以下のようなサポートが可能です。
• 裁量労働制が使える職種かどうかの判断
• 就業規則・労使協定の整備
• 労使委員会の設置と議事録作成
• 労基署への届出サポート
• 代替制度(フレックス、変形労働時間制など)のご提案
「うちの職種でも使えるの?」「もう導入してるけど不安」
そんな疑問があれば、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ:「裁量労働制=残業代ゼロ」ではありません!
裁量労働制は、柔軟な働き方を可能にする一方で、
導入のハードルが高く、運用を誤ると法令違反になるリスクが大きい制度です。
「残業代を抑えたい」という理由だけで安易に導入するのではなく、
制度の本質とリスクを理解した上で、必要な整備を行うことが大切です。
クラリ社会保険労務士事務所が、貴社の実態に合った働き方制度の設計をお手伝いします。
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